【APB】技術開発動向レポート(三洋化成工業)

技術開発動向

 今回は上場銘柄ではないですが、個人的に期待しているスタートアップ企業である「APB株式会社」の分析を行いました。【4417】三洋化成工業の子会社ですので株主の方は必見です。また、リチウムイオン電池市場に興味がある方もぜひご覧ください。

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APB株式会社とは

 APB株式会社は世界で初めての次世代リチウムイオン二次電池である「全樹脂電池」を自社開発、製造販売を行うスタートアップの電池メーカーです。

 なんと80億円もの資金調達を行っている注目のスタートアップで、国内2位の規模となります。親会社の三洋化成工業をはじめ、JFEケミカルや豊田通商、帝人、横河電機・・・等々のそうそうたる企業が出資しています。

 現在は福井県で量産工場の建設を進めており、2021年に操業予定とのことです。後述する日産自動車との特許ライセンス契約上、自動車用途の電池は量産できません。まずは定置用途でビジネスを展開するようです。性能が未知数なのと実際に使用した実績も少ないようですし、ライセンスの問題がなくても自動車用途で使うには実績が足りないかもしれませんね。

全樹脂電池とは?

 従来のリチウムイオン電池は集電箔にアルミなどの金属を用いていましたが、この全樹脂電池は電極に樹脂を用いています。樹脂化することで、電極の厚膜化、セルの大型化を容易に行え、電気容量を従来型の約2倍以上にすることが可能だそうです。また、この全樹脂電池はバイポーラ型で積層による直列接続が可能なため、接続部品点数を減らせることによりシステム全体の小型化が可能です。さらに樹脂ということで金属よりも形状の自由度が高く、3Dプリンターの活用や従来にない新規需要への展開も期待されます。

出典:三洋化成工業HP

特許出願動向

 では特許出願の動向を見ていきましょう。全樹脂電池は堀江英明氏(APBの代表取締役)が日産自動車(以下:日産)の車載用電池開発に携わっているときに構想し、慶應義塾大学の特任教授を経て、三洋化成工業(以下:三洋化成)と共同で開発したものです。APBは三洋化成工業と日産からライセンスを受けて量産を担当するというたてつけになってます。よって特許出願動向は親会社である三洋化成と日産自動車の特許出願動向を分析することにします。

まずは出願件数の推移を見てみましょう。電池の集電体に樹脂を使った特許分類(Fターム:5H017EE07)で集合を作成しました。セルの数字がその年に出願された件数となります。両社による共同出願と各社の出願件数はラップしてます。

 日産の出願件数は三洋化成の2倍近くあり、2000年代に多くの出願をしています。技術の基礎的な部分は日産がノウハウも特許も保有している可能性が高いです。三洋化成と共同開発を始めた2012年以降は出願の勢いが再び伸び始め、三洋化成の技術を応用した改良技術や量産に関わる技術の出願が多く出願されているものと推察されます。すべての技術を共同で出願しているわけではなく、8割程度が共同出願(日産と三洋で権利を共有)となっています。

 さらに最新の特許出願では次世代のリチウムイオン電池として注目されている「全固体リチウムイオン電池」についての出願が2019年に2件ありました。いづれも三洋化成の単独出願です。「次世代技術×次世代技術」=「全樹脂×全固体」という組み合わせも非常に期待できますね。

 期待が大きい全樹脂電池ですが開発は他社に先行しているのでしょうか?他社を含めた年ごとの出願件数をバブルチャートで見てみましょう。

  電池事業を持つエルジーやパナソニック、日産と同じ自動車メーカーではトヨタ自動車が挙がっています。エルジーは出願が縮小傾向、パナソニックは2018年、2019年にある程度まとまった出願をしています。トヨタ自動車は2014年以降に出願件数が増加しています。いづれにしても、開発は日産が先行していると考えられ、近年の技術開発の注力度も日産-三洋化成連合が最も大きいと考えられます。

権利取得状況

 それでは権利の取得状況はどうでしょうか?特許出願を積極的に行っていても権利が取得できていなければ他社に対する優位な材料として働きません。下図は権利の取得件数と割合をパイチャートであらわしたものです。

 日産自動車がトップの権利数を取得しています。次点でエルジーとなっています。エルジーは近年の出願件数は減少傾向にあるものの、多くの権利を保有しているようですね。三洋化成工業は8番目で11件の権利を保有しています。日産自動車やエルジーと比べるとちょっと心もとない件数ですね。しかし、出願件数の動向でも触れた通り、近年の出願件数が急増していますからまだまだ権利数が増える余地があると考えられます。各社の権利数の伸びしろを確認してみましょう。現在も審査中または審査待ちで、特許になる可能性のある出願の件数(これを係属中の件数といいます)を調べることでわかります。

 現在は保有権利数が少ない三洋化成工業ですが、権利数の伸びしろはトップです。特許の勢力図における三洋化成の存在感は今後大きくなり、日産自動車はより大きくなっていくことでしょう。

 権利の保有数が2番目に多いエルジーですが、近年の出願件数が先細りしているため、伸びしろは非常に小さいです。形勢は徐々に逆転していくものと考えられます。しかし、現状では日産自動車に次ぐ規模の権利数ですからリスク(脅威)となる可能性は捨てきれません。そこで三洋化成や日産にとってエルジーが脅威となりうるかを検証してみます。下図はエルジーの特許の被引用件数をマップ化したものです。被引用とは、他社が出願を権利化しようとした時にエルジーの特許に邪魔された(通せんぼされた)ということです。つまり下図でいうと、京セラは樹脂の集電体または担体を要素に含む特許出願を1件したところ、エルジーの特許が先に存在していたせいで対応を余儀なくされた(邪魔された)ということになります。

 全部で9社の名前が挙がりましたが三洋化成工業や日産自動車の名前はありません。つまり日産・三洋化成連合とエルジーの技術は技術要素領域が重なっていない(脅威にならない)可能性が高いということになります。

まとめ

ポジティブポイント

  • APBは全樹脂電池という革新的な電池の量産を手掛けるスタートアップであり、多数の企業から多額の資金調達を行っている(業界からの期待が大きい)。
  • 全固体などの次世代リチウムイオン電池にも応用している動きがある。「次世代技術×次世代技術」=「全樹脂×全固体」の組み合わせに期待。
  • 特許の出願件数は年々増加傾向にあり、権利保有数の伸びしろが高い。将来的に他社に対する技術面・特許面での競争優位を確立する可能性が高い。
  • 競合は日産・三洋化成の出願規模に対して小さく、権利保有数も少ない。保有数が多いエルジーについても保有権利数の伸びしろが低く、現在の保有権利もAPBの技術領域と重なっている可能性が低く特許面で大きなリスクとなる可能性は低いと考えられる。

ネガティブポイント

  • 日産との特許ライセンスとの関係で今後の成長が期待される自動車用途のビジネスは行わない。
  • 当面は技術面・特許面ともに日産に依存する可能性がある。
  • 全樹脂電池の実用実績が少なく、実力が未知数。

以上となります、いかがでしたでしょうか。APBは三洋化成工業の長期的な業績に大きな貢献をする企業となるかもしれません。株主さんは有価証券報告書や各種IR資料で情報を注視しておくことをお勧めします。

 まだまだ先のことかもしれませんが、全樹脂電池事業が軌道に乗ってAPBが上場というこになれば改めて分析してみたいと思います。それだけ個人的には期待しています。

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