【日本たばこ産業】技術開発動向レポート

技術開発動向

こんにちは、喜至です。

この記事に興味を持っていただき、ありがとうございます。
私は大手メーカーで知財を扱う会社員をしております。

 ここからはこのようなレポートを作成したいと思った私の動機です。不要な方は読み飛ばしていただいてかまいません。私は1年前から株式投資を始めました。基本的に長期投資を考えていますが、企業の決算情報やネットの情報収集だけでは10年後、20年後を見通すのは難しいと感じておりました。私自身、理系の出身ですのでメーカーは技術が利益の源泉であるという考えが強く、その企業がどの方向に技術開発のリソースを投入しているかを知りたいと思ったのがきっかけです。そして私には本業で身につけた知財(特許)の素養があったため、自身で技術開発動向を調査することにしました。同じような思いの方のお役に立てれば幸いです。

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特許情報とは

 特許とは発明を保護する制度であり、発明をした者は国から特許権という独占排他的な権利を与えられることでビジネスを有利に展開することができます。一方で出願された特許はその内容が公に公開されることで発明の利用や改良を促し、産業の発展に寄与します。公開される特許公報には主に権利情報技術情報が含まれており、これらの情報を集計、分析することで業界全体や特定の企業が注力する分野、技術、課題、手段などを明らかにすることができます。

本レポートはメーカーが将来を見据えてリソースを投入している事業分野や技術を特許情報から分析することで決算資料や財務情報からは知ることのできない、水面下の技術開発情報を提供します。

 特許情報には下図のような権利情報と技術情報が記載されています。

1
特許が持つ情報

 

また、技術情報は「特許分類」という記号によって、多様な観点から分類わけがされており、情報の検索、分析をするのに有用な情報源となります。下図に特許分類一つであるFタームの一例を示します。

Fターム
特許分類(Fターム)の例

 

左の英数字5ケタのテーマコードが技術の分野やカテゴリを示し、右側の英数字4桁が観点を示します。つまり4B162 AA22のFタームが特許に付与されていれば疑似たばこの電気的過熱手段の発明であること、4B162 AB17であれば疑似たばこの成分がニコチン代替物である発明であることが分かります。それでは次項から特許情報分析結果を示しながら解説します。

特許出願・登録件数推移

 分析の母集団は、日本たばこ産業(以下:JT)2000年から2019年末までに出願した日本特許(1879件、20203月現在、使用データベース:Patentfield)を対象としました。

 まずは年ごとの特許の出願件数と登録件数(審査を経て権利として認められたもの)を見てみます。ちなみに特許は出願から公開・登録されるまでにはタイムラグがあります。特に出願件数に関して、2018年および2019年はまだ公開されていない特許が多数あるため、実際の出願件数はもっと多いと考えられます。

件数推移

特許出願と登録件数推移

 出願件数は毎年60~120件程度を推移しており、平均すると約100件/
年となります。

大企業の特許出願数の平均が直近で80~90件/年であることを鑑みると、JTの特許出願数は平均的と言えます。ここ8年ほどは出願件数が100件を下回る年が続いています。利益が漸減傾向にあることを考えると技術開発や特許権の取得にかかるコストを徐々に削減しているのかもしれません。

出願分野(マクロ)

 ここからはJTがどの分野に技術開発のリソースを投入しているかを、過去から現在に至るまで分析してみます。下図は冒頭で紹介した特許分類のひとつであるFタームのテーマコード(総数の多いものや特徴的なものを一部抜粋)と出願年を軸としたヒートマップです。出願された特許に特定のテーマコードが付与された件数を出願年ごとにプロットし、全体に対する件数が多いマスが赤く、少ないマスが青く色分けされています。過去に赤色で直近が青色の場合、そのテーマは研究開発をやりつくしたか、開発をリタイアした可能性が濃厚です。逆に過去に青色で直近が赤色の場合、開発にエントリーを開始してリソースを割いている可能性が高くなります。

テーマコード

テーマコードと出願年のヒートマップ

 それでは、上から分野ごとに結果の確認と考察を行いたいと思います。

(1)たばこ関連

 たばこの葉を燃焼させる一般的な「たばこ」については4B045(巻たばこ、フィルター、フィルターの製造)や4B043(たばこの製造)が該当します。4B045がより最終製品に近いたばこを、4B043はたばこの葉の処理などのより原料に近い発明が含まれるテーマコードとなります。件数の推移を見てみると、2010年から2014に出願が集中したこと以外は過去も現在も大きく変わっていません。少なくとも研究開発のリソースを大幅に減らしていることはないと考えられます。一方で葉巻たばこを主とする4B144 (葉巻たばこ)や、たばこの包装容器が対象となる3E068(環状・棒状物品、衣料品、カセット等の包装)は直近5年間での件数は少なく、研究開発のリソースを大幅に減らしていることが予想されます。

(2)
自動販売機などのシステム関連

 たばこの自動販売機が対象となる3B044(自動販売機等の制御,補助装置)や、自動販売機と連動または小売りのための業務システムなどが対象となる5L049(管理・経営・業務システム,電子商取引)は2000年初期に力を入れて開発を行っていたことが分かります。しかし、2010年以降は件数が減少し、直近5年間はほぼ0です。研究開発をやりつくしたか、開発をリタイアした可能性が濃厚です。

 (3)加熱式・非加熱式たばこ関連

 最近、利用者が増加しているプルームテックなどの加熱式たばこについては4B162(疑似たばこ)の分類が該当します。4B162に関する特許は2009年までほとんど出願がされておらず、2010年から2019年にかけて急速に件数が増加していることがわかりますこれは近年、技術開発リソースが集中していることを示唆します。また、2017年から新たなエントリーとして5G503(電池等の充放電回路)の出願が続いています。これは加熱式たばこの充電装置の改良に着手していると考えられます。JTは2013年に加熱式たばこであるプルームを発売し、2016年にプルームの後継製品であるプルームテックを販売しています。2016年以降も多くの件数が出願されていることから、製品の改良は今後も続くものと考えられます。どのような目的、特徴のある発明がなされているかは後にミクロな視点で分析したいと思います。

(4)医薬品関連
 医薬品関連の特許分類は数が多いため、件数上位の分類の推移を見てみます。2000年代前半は多くの分類が黄色やオレンジ色となっており、多くの研究開発リソースを投入していたことがうかがえます。しかし、徐々
に多くの分類の件数が減少していき、直近で継続的に出願を続けているのは
4C086(他の有機化合物及び無機化合物含有医薬)のみとなります。2016年度より営業利益が黒字化した医薬事業ですが、最初は種まき期間として多くのテーマに着手し、その後、テーマを選択・集中していったものと考えられます。どのような目的、特徴のある発明がなされているかは後にミクロな視点で分析したいと思います。

(5)加工食品関連・その他新規事業シーズ

 JTが展開する事業として加工食品事業があります。特許を確認したところ、過去に香料や調味料に関する出願を行っている履歴が見つかったものの、出願件数自体が少なく、直近で意欲的に出願している分類も見当たらなかったため、本レポートでは省略しています。このことから、JTが加工食品関連で画期的な商品を市場に投入する可能性は低いと考えられます。
また、その他の分類に関しても直近5年間で意欲的・継続的な出願はみられず、現在の3事業以外に新規事業のシーズ開発を行っている形跡は見られませんでした。

ここまでのまとめ

・出願件数推移
直近の特許出願数は大企業としては平均的であるものの、JT自身の平均値を下回る年が続いている。
→利益漸減に伴い、研究開発や知財のリソースが削減されている?
→または技術開発テーマの選別をしたことで全体の出願数が減った可能性も考えられる。

・注力開発テーマ
 直近は加熱式たばこ関連の開発に注力。たばこや医薬については多数のテーマにリソースを割いていたが、最近は一部のテーマに選択と集中を行っていると考えられる。

・注力してないテーマ
 事業部門の一つである加工食品関連の出願まとまった出願や継続的な出願がされているテーマは見当たらなかった。また、既存事業部門(たばこ、医薬、加工食品)以外のテーマについても同様にまとまった出願や継続的な出願が見られなかった。

完成版について

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。サンプルはここまでとなります。完成版では加熱式たばこと医薬品についてさらにミクロな分析を行っております。ご興味がある方は是非、お買い求めください。完成版は下記リンクからご購入ください。

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