こんにちは、喜至です。
この記事では住友化学がどのような分野の技術力の強化をおこなっているかをIR資料と特許情報から見てみたいと思います。投資や転職等の参考にしていただければと思います。
住友化学の事業概要
出典:経営戦略説明会資料(2020年5月28日)
国内2位の総合化学メーカーということで多様な事業を展開しています。主な稼ぎ頭は石油化学と医薬品ですが、2019年度は石化市況下落によって大幅に営業利益が下落してます。
株式指標
※2020年7月31日時点
株価:303円
PER:16.02倍
PBR:0.36倍
配当金(2019年度実績):16円
配当利回り:5.61%
すごく割安で配当利回りも高いですね。
特許出願動向
特許情報から住友化学の注力分野や研究開発意欲を観察してみます。それでは事業ごとの特許出願状況を見てみましょう。
表の見方を説明しますと、各事業部門ごとの事業に関する特許分類(テーマコード)の出願件数(2013年~2019年)と年ごとの出願件数をヒートマップという形で示しています。出願件数が多い年は赤いセル、少ないものは青いセルであらわされています。年ごとの変化が青→赤に変化している分野は近年、特許出願件数が増加しており、研究開発が活発であることが直感的に分かります。逆に赤→青に変化している分野は特許出願件数が減り、研究開発が進んでいない可能性があります。増減率は2013年~2015年までの出願件数と2016年~2018年までの出願件数を比較した際の増減率となり、近年の活発度を表す指標としています。
(2019年の出願件数はまだ未確定のため考察には使いません。参考程度にとどめてください)
( )内は2019年度の営業利益
すべての事業について分析するのは大変なので、増減率の変化が大きい分野のみに絞ります。
(他の分野についても分析をしてほしい方はコメントやDMをください)
また、医薬品事業については出願を行っているのも、権利を持っているのも大日本住友製薬という別会社(子会社)となるため分析は見送りました(大変ナンス・・・)
Liイオン電池事業
注目すべき点は増減率が急上昇している5H021(セパレータ)ですね。電気自動車やハイブリッド自動車の増加を背景に市場が成長しているLiイオン電池の重要な部品となります。2015年を境に急激に出願数が増加しています。IR資料によると「アラミドセパレータ」という他社のセラミックセパレータとは異なるセパレータを市場に供給しているようです。
競合に対する出願件数の推移はどうでしょうか?下記にセパレータメーカー各社の出願推移をバブルチャートで示します。バブルの大きさと中央の数字がその年の出願件数となります。
住友化学はここ4年ほど、明らかに他の競合メーカーよりも出願件数が多いです。他のメーカーにはない技術領域を発掘したのでしょうか?細かい比較はもっとミクロな分析をしなければわかりませんが、出願数の増加はさらなる高性能化やラインナップの増加を裏付けるものと考えられます。
競合との関係を見たついでに特許となった権利数の関係も見てみましょう。2020年7月現在に存続しているセパレータの特許数と全特許数に対する割合をパイチャートで示しています。
住友化学はLGに次いで権利数で2位につけています。現時点で多くの特許を保有している上に、直近の出願件数も多いことから、このまま順調に特許を取得できれば競合メーカーとの競争優位が築ける可能性がグッと高くなりますね。
液晶・有機EL事業
液晶、有機ELともに共通の要素である2H149(偏光要素)の出願は増加傾向となっていますが、2H219(液晶)は-5%の減少を見せており、有機ELの構成要素である3K107(EL光源)は+71%の増加を見せています。これは技術開発領域が液晶から有機ELに軸足を移していると考えられます(発明者数の移り変わりなんかを分析すればその辺がはっきりするのですが・・・)。
そして増減率が+220%となっている4J043(含窒素連結基の形式による高分子化合物一般)。すさまじい勢いのテーマコードですが、説明を見ただけではなんのことかサッパリです。そこで、4J043の特許出願の集合を作成してテキストマイニングをしてみたところ、このようなキーワードが得られました。文字の大きさは使用頻度を表しています。
「表示装置」を中心に様々な用語が並んでいますが注目したいのは「フレキシブル」や「剛直(柔軟性がないこと)」などの「フレキシブルディスプレイ」に関係すると思われる用語が複数あり大きいこと。公報を1件ずつ読み込んだわけではないので確定はしませんが、住友化学は有機ELの開発に軸足を移すとともにフレキシブルディスプレイについての開発を強化テーマとしている可能性が高いことが分かります。
農薬事業
上で紹介した2つの事業は特許出願の増加率が急激に上昇している事業でしたが、農薬事業は減少率が高い事業です。考えられることとしては、①農薬事業の利益が減って研究開発費が少なくなったために発明が減った。またはテーマコード4H011だけではカバーできていない(検索漏れがある)。あたりが当てはまりそうかなと・・・。ということで研究開発費と出願件数を対比するグラフを作ってみました。出願件数はキーワード検索(農業or農薬or殺菌or殺虫or除草orヘルスor健康or飼料)も合わせて行いました。
結果はご覧の通り、キーワード検索の結果でもテーマコード(4H011)でも右肩下がりなのは変わらず、研究開発費とは反比例する結果になりました。う~ん( ^ω^)こうなるともうわかんないですね。単純に開発しつくしてしまったのでしょうか?それとも日本での製品化を目指してない?この辺はさらに海外出願等も見てみないとわかりません。骨が折れそうなのでここまでにします。
まとめ
1)Liイオン電池に関する特許出願が増加傾向
→特にセパレータでは他社より多い出願、権利確保ができており競争優位を築ける可能性が高く、ひいては中長期的な事業の成長の原動力となる可能性あり。
2)有機ELに関する特許出願が増加傾向
→液晶から有機ELに開発の軸足を移していると考えられる。特にフレキシブルディスプレイについて注力度が増している可能性が高い。
3)農薬に関する特許出願は減少傾向
→研究開発費が増加傾向なのが不可解。成果が出ない?日本で製品化を目指していない?現状では情報不足。
いかがでしたか?特許情報だけで未来を完璧に予測することはできませんが、他の投資家さんが発信しているマーケット情報や財務情報と複合的に考察を行えばもっと具体的な将来像が見えてきそうです。
少しでも転職や投資判断の材料となれば幸いです。
他にも分析してほしい事項や銘柄があればコメントやDMをいただけると嬉しいです。
コメント