【ファナック】技術開発動向レポート

技術開発動向

こんにちは、喜至です。
この記事ではファナックがどのような技術力の強化をおこなっているかを特許情報から見てみたいとおもいます。投資の参考にしていただければと思います。

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技術開発動向(マクロ)

研究開発費と特許出願件数

 下図はファナックの研究開発費と特許出願件数を年ごとにまとめたグラフになります。ちなみに特許は公開されるまでにタイムラグがあります。2019年および2020年の出願件数はまだ確定していないため参考として見てください。

ファナックの特許出願件数と研究開発費

 研究開発費は2013年ごろから右肩上がりに上昇しています。また特許出願件数も研究開発費に比例して増加傾向になります。研究開発の投資が成果に結びついているのは好印象ですね。どのような分野に投資をしているのでしょうか?分析していきましょう。

出願分野と推移

 つづいてファナックがどの分野に特許を出願しているか、時系列もまじえてみていきましょう。この推移をみることで企業の技術開発の注力分野を予想します。下表が分野と出願年ごとの特許出願件数を表したヒートマップになります。表の見方を説明しますと、出願件数が多い年は赤いセル、少ない年は青いセルであらわされています。年ごとの変化が青→赤に変化している分野は近年、特許出願数が増加しており、研究開発が活発であることが直感的に分かります。逆に赤→青に変化している分野は特許出願数が減り、研究開発が進んでない可能性があります。長期増減率は2011年~2014年までの出願件数と2015年~2018年までの出願件数を比較した際の増減率となり、短期増減率は2015年~2016年までの出願件数と2017年~2018年までの出願件数を比較した際の増減率を表し、長期および近年の技術開発の活発度を表す指標としています。

 まず圧倒的な出願件数である3C269(数値制御)ですが、これは主にCNC(コンピュータ数値制御)に関する出願になります。CNCはファナックの主力事業であるFA事業の商品ですね。ファナックは他にロボット事業やロボマシン(工作機械)の事業がありますが、CNCはこれらの事業にも関連するファナックの基礎的な技術です。短期的にも長期的にも増加傾向にあり、継続して開発成果を積み上げることができていることは製品競争力強化の点で良いと思います。後で他社の動向も合わせて確認してみます。

 次に二番目に出願件数が多いのは3C707(マニプレータ)になります。これは主に産業用ロボットをカバーする出願になります。ロボット事業はファナックの売上の約4割を占める最も売り上げの高い事業です。ファナックはロボットメーカー世界4強の一角であり、高いシェアを持っていますが開発意欲はいまだに高いことがうかがえます。

 全体の出願件数が右肩上がりに増加する中、ロボマシン事業を主にカバーする4F206(プラスチック等の射出成型)や3C059(放電加工)は減少傾向にあるようです。

 2015年以降に急激に出願件数が伸びている3C100(総合的工場管理)は、工場内の各加工機やロボットの稼働状況、工程進捗を一元管理するシステム(FIELD system)を主にカバーしています。このテーマが学習型計算機と同じタイミングで増加しているのは何か意味がありそうですね。

 そして2015年から新たにエントリーした5B078(学習型計算機)。アニュアルレポート等でも記載されていますが、全商品群にまたがる実用的なAIの実装を目的に開発を行っており、ファナック製品の差別化の肝となる分野です。後で詳しく見てみましょう。

CNCの技術開発動向

 CNCは複数の複数の用途にまたがっている技術のため、まずは用途ごとの出願推移をみてみましょう。

 用途としては機械加工(3C269AB1)や産業用ロボット(3C269AB33)に関するものが出願件数の大半を占めていることが分かります。テーマコードの推移では勢いがなかったロボマシン事業もCNCの進化による制御面での付加価値が向上している可能性があります。

競合と比較した特許出願状況

 CNCを製品として扱う企業はファナックだけではありません。他社の特許出願状況とあわせて出願年ごとの出願件数をみてみましょう。下図は機械加工用途のCNCに関連する特許出願を行った出願人と出願年ごとの出願件数をバブルチャートであらわしたグラフになります。中央の数値が出願件数で、件数が多いほどバブルが大きくなります。(Fターム:3C269AB1(機械加工)で集合作成)

 CNCといえばファナックの他に三菱電機やドイツのシーメンス社が高いシェアをもっていることで知られています。しかしシーメンスは日本での出願はなく、三菱電機も直近の出願推移は下火になっていることがわかります。そんな中、ファナックだけが増加傾向で大量の出願をしており、他社と比べて開発意欲が旺盛であること、成果が出ていることがわかります。

競合と比較した権利取得状況

 続いて権利の取得状況をみてみましょう。下図は2021年4月30日時点での各社の特許保有件数をパイチャートであらわした図になります。(検索式は前記同様)

 現時点で権利保有数のNo1はファナックです。出願件数の推移から見て、今後も権利数を増やし、他社と大きな差をつけていくことが予想されます。

ロボットの技術開発動向

 ファナックの事業の中で最も売り上げの大きいロボット事業をみていきましょう。CNCと同じくまずは用途をFタームでみていきます。

 まず出願数も多く、増加率も高いのは3C707AS05(工作機械、処理装置への受け渡し)です。これは説明の通り、加工中の製品を工作機械にセットしたり取り出したり(ワークロード/アンロード)するロボットが該当します。次に高いのは3C707AS08(溶接・溶断)です。自動車の製造工程など既に導入が進んでいる溶接ロボットですが、近年の出願件数が伸びているのはなにか理由がありそうですね(今回は尺の都合で考察しませんが)。

 その他に気になるのは3C707AS07(嵌合)、3C707AS08(電気、電子部品)が2015年以降にエントリーしていること。公報を眺めてみたところ、ワイヤーハーネスの嵌め込み(嵌合)を行うロボットでした。自動車の電動化が進むことでハーネスが必要になる要素が増えていることが背景にありそうです。

 逆に全く開発の痕跡が見当たらないのは土木建築用や半導体、サービス、医療、エンタメの分野です。半導体は既にロボットの導入が進んでいて、今後も需要が伸びていく分野ですがファナックはここを明確にターゲットにはしていないみたいですね。サービスロボットも今後の需要拡大が見込まれる分野ですがノータッチ。アニュアルレポートにファナックはサービス、医療、エンタメロボットは手掛けないと記載がありましたがその通りのようですね。

競合と比較した特許出願状況

 さらに下図は2011年から2021年3月までのロボット関連出願数を各ロボットメーカーと用途で集計したヒートマップになります。(3月に作成したので時差の関係で上の用途マップと若干件数が異なっています)

 ファナックが力を入れている(工作機械、処理装置への受け渡し)は他のメーカーと比較してかなり出願数が多いです。工作機械の事業をもつファナックだからこそロボットとの連携を重視しているのでしょうか。さらに(溶接・溶断)についてはダイヘンや安川電機がまとまった件数を出願していますが、最も多い出願件数はファナックとなっています。

 2015年以降から新たにエントリーした(嵌合)の用途についてはセイコーエプソンやキャノンがファナックよりも多くの出願をしている状況です。

競合と比較した権利取得状況

 現在までの権利取得状況も用途ごとにみてみましょう。

 複数製品の取り出しや工作機械への受け渡し、溶接・溶断の用途では他のメーカーを圧倒する権利数です。これらの用途は2011年以前から技術開発成果を積み上げており、これから先も多くの権利数を取得していくことが予想されます。さすが産業用ロボットで世界4強の一角ですね。

 新たにエントリーした嵌合の用途については出願数ではセイコーエプソンやキャノンが圧倒していましたが、権利数はまだそれほど多くないようです。この2社の出願はかなり新しい出願なのでこれから権利数を伸ばしていくことが予想されます。ちょっとファナックとしては開発領域が絞られて苦しい部分がでてくるかもれませんね。この辺はより分析しがいがありそうですが、今回は割愛します。

学習型計算機の技術開発動向

学習型計算機による付加価値

 アニュアルレポートに記載の通り、ファナックはAIの活用を今後の差別化ポイントとしていることを発表していますが、出願分野と推移を分析したことで実際に開発にかなり力を入れていることが確認できました。投資家向けの資料では流行りのキーワードを入れて実態が伴っていないことが多々あるので特許情報から裏がとれたのはいい点ですね。で、ここではAIを導入することでファナック製品にどのような付加価値がつくのかをみていきましょう。5B078のテーマコードにFタームはないため、単独で分析することはできません。また、複数のテーマコード(分野)にまたがっているため、5B078単独の集合からテキストマイニングを行っても概要を把握することが困難だったため、5B078とセットで付与されているテーマコードで切り分けながら分析してみたいと思います。まずは一番件数が多かったCNCをカバーする3C269(数値制御)から。下の画像は5B078と3C269がセットになった出願の集合の一部をテキストマイニングした結果になります。出現頻度が高く特徴的な単語が大きく図示されています。

 最も大きいのは「機械学習」ですね。付与されているFIも確認したところ、ファナックの言うところのAIとは機械学習(教師あり)を主に指しているようです。次に大きいのは、「故障」や「予知」といったキーワード、「産業機械」や「工作機械」「モータ」などの対象物を指すキーワードがでてきます。機械学習によって工作機械やそのモータの故障を予知することが主目的になっていると考えられます。

 次は3C707(マニプレータ)関連をみていきます。下図は視覚装置や画像化装置に特徴のある機械学習関連の集合からテキストマイニングを行った結果です。

 「検出」や「把持」、「撮像」といったキーワードがクローズアップされています。カメラなどから得られた画像データを利用して物品(ワーク)のどこをロボットで掴む(把持)するかを機械学習で学習し、精度アップや柔らかいもの、キズがつきやすいものに対応できるようにしているものと推察されます。この辺の課題と解決手段は産業用ロボットの業界分析でも挙がっていた内容ですね。各ロボットメーカーさんと同じく、画像認識技術とAIを組み合わせてファナックも取り組んでいるようです。

 最後にもう一つ。加速度の情報に特徴のある機械学習関連の集合からテキストマイニングを行った結果です。

 「振動」に関連する周波数「帯域」「hz」といったキーワードが特徴的です。キーワードだけではイメージがつかなかったため、いくつか公報をみてみると、どうやらロボットを高速で稼働してタクトタイムを短縮しようとすると、ある「帯域」の「振動」によってロボット動作に「誤差」が発生することが課題となっているようです。その課題を機械学習でアームの「速度」や「軌跡」を調整することで振動抑制→動作精度とタクトタイム短縮の両立 を可能にする技術とのこと。産業動向レポートなどのマクロな情報から得られにくい、「現場の情報」という感じですね。

 他にも3C100(総合的工場管理)との組み合わせでは加工設備と作業者の最適配置や稼働を機械学習で提案する技術などなど、AIを活用した技術は幅広いテーマと絡んでいるようですが、尺が長くなるのでこのあたりでやめておきます。こういったAI(機械学習)の実装がファナックの製品にどの程度の付加価値を与えるのかは定かではありませんが、新たな技術開発領域として他社との差別化要因になると考えられます。

共同出願・発明者分析

 出願分野の推移を見た時、ファナックが2015年以降、AIの分野でいきなり20件前後の出願をコンスタントに行えていることに驚きました。普通は開発にエントリーしたばかりの技術は右肩上がりに出願件数が増えていくイメージです。このようなスタートダッシュをきれたのはなぜなのでしょうか?開発パートナーと人材の観点からみていきましょう。

 ファナックで5B078(学習型)計算機の発明者になっており、かつ2015年以降が初めての特許出願となっている発明者は総勢43名になりました。この43名すべてがAI・機械学習の素養がある方ではないと思いますが、数人程度の小さなチームではないことは確かだと考えられます。その中でも下図に示した発明者はAI・機械学習関連のバックグラウンドを持つ発明者だと考えられ、中途人材、アカデミア出身者などの採用面にも力を入れていることが分かります。また、共同出願人であるPreferred Networksはディープラーニング(機械学習手法の一種)に強みをもつスタートアップ企業でファナックだけでなく、トヨタ自動車とも協業して研究開発をしている企業です。外部との連携も行い、成果につなげていることが分かります。

 発明者に関しては一般人の方なので念のため実名は伏せておきます。上記43名のうち、一部の出願件数上位の方をJ-GLOBALで検索した結果です。同姓同名が存在せず、活動時期からみて同一人物である確度が高い方のみピックアップしました。

まとめ

 今回、ファナックの特許情報を分析してみてわかったことをまとめると・・・

  • 出願件数は研究開発費に比例して右肩上がりに増加傾向。
  • CNCやロボット、工場管理システム、AI(機械学習)に関連する出願件数は全体の出願件数増加率よりも高い増加率で注力度大。逆にロボマシン事業に属する工作機械に関する出願は横ばいで注力度が高くない。
  • CNCの特許については他社を圧倒する出願件数と権利数があり他社に対して優位性を保っていると考えられる。
  • 産業用ロボットは溶接や工作機械との連携に強みがあり、他社と比べて出願件数・権利数ともに圧倒。近年は自動車の電動化の影響と思われるハーネスの嵌め込み技術に領域を広げている動きあり。しかしロボットによる嵌合技術はキャノンやセイコーエプソンも猛烈な勢いで開発を行っており、開発自由度の確保が困難になる可能性あり(要詳細分析)。今後の需要増加が期待される半導体やサービスロボットに関してはノータッチ。
  • ファナック自身が今後の差別化ポイントとして挙げているAIについては、機械学習をベースとした工作機械の保全・故障予知、画像認識による製品保持技術の向上、振動抑制による精度向上→タクトタイム短縮に取り組んでいる形跡が確認できた。詳細は未検証だが工場管理など他の分野にも幅広くAI実装の検討を行っていると考えられる。
  • 機械学習については技術的なバックグラウンドを持つ人材の採用を大量に行っていると考えられ、発明者分析では要素技術を持つ中途者やロボットの認知に関連するアカデミア出身者の採用実績が確認できた。また外部提携先としてディープラーニングに強みを持つスタートアップ企業との連携、発明の創出も順調であることが確認できた。採用・オープンイノベーション共に戦略的に実行していることが分かった。

 ファナックの技術開発動向の分析は以上となります。技術開発も旺盛に行っていますし、次世代技術への手も打っていて個人的には好印象です。技術的な最重要ポイントは注力度が急上昇中のAI実装で他社と差別化できる付加価値を生み出せるかですね。今後も動向をチェックしていきたいと思います。総合的にはファンダメンタル面、技術開発面ともにとても優秀な会社で、割安になったら最優先で買っていきたい銘柄です。

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