こんにちは、喜至です。下記記事では産業用ロボット業界の状況や課題を分析しました。次に銘柄選定に進みたいのですが、ロボット銘柄となるとかなりの数となるため、ある程度ふるいにかける必要があります。そこで、この記事では産業用ロボット業界の銘柄選びの優先順位を決めるため、おおざっぱなファンダメンタル分析と特許情報を基にした技術開発動向の2軸から分析をしてみたいと思います。優先順位決め→個別銘柄分析という手順ですね。なお、分析内容は約半年前のものになります。本当は下記記事を作成した後にこの記事を投稿する予定だったのですが、時間がなかったため個別銘柄分析の記事(ファナックやFUJI)が先行する形になりました。それではいってみましょう!
特許出願推移・開発用途
まずは各メーカーのロボット(テーマコード:3C707、日本のみで検索)に関する特許出願件数の推移を見てみましょう。特許出願の推移をみることで、技術開発が順調に成果に結びついているかの判断材料のひとつとしています。なお、産業用ロボットを事業として行っている銘柄に投資することを目的としているためトヨタ自動車などの自動車メーカーは省いています。下のグラフは横軸に2011年~2018年の出願件数増減率を、縦軸に2015年から2018年の特許出願件数増減率をとり、バブルの大きさは2011~2028年までの特許出願総件数をとったポジショニングマップになります。トピックとしては、
- ほとんどの企業がマトリクス上の右上にあり、全体的に出願件数は増加傾向
- セイコーエプソンの出願件数がすごい(;’∀’)
- 出願件数が多いファナックや川崎重工も長期的には出願が増加
- 産業用ロボットで高いシェアをもつ安川電機が減少傾向になっているけど大丈夫か?
- 長期的のも短期的にも増加率が高いのはオムロンや東芝、日本電産などのロボット以外の技術的な裾野が広そうな印象(モータ、AI、センシング等々)
- オムロンは産業用ロボット普及の課題でもある三品をターゲットにしたラインアップを確認
次に各社がどういった分野・用途で技術開発を行ているのかをみてみましょう。今後、需要が見込まれる分野で開発を行っているかを確認することが目的です。下の表は各社の特許出願件数を用途ごとに集計したヒートマップになります。
- ファナックやダイヘン、安川はロボットの利用が進んでいる車用途(溶接)で注力度高
- ロボットの利用が進んでいる電子部品ではパナやFUJI、ヤマハ発、セイコーエプソン
- 半導体では安川、ダイヘン、川重、日本電産が注力度高
産業用ロボット普及の課題として挙がっていた、三品(医薬、食品、化粧品)に関する注力企業はどこでしょうか?三品のキーワードを含むロボット関連の特許出願件数推移をみてみました。
- 川崎重工業が特許出願では存在感大
- 安川やファナックなどの古くからのロボットメーカーだけでなく、ここ5年くらいで技術開発にエントリーしている企業が増加している点(グラフ上側)も注目
特許権利数
現在の特許権の保有件数を見てみます。1位はファナック、2位がセイコーエプソン、3位が安川電機と続きます(自動車メーカーは除く)。出願件数の増加率が異常に高かったオムロンなどは実際の権利数ではまだ存在感が薄く、出願件数が減少傾向の安川電機も高い特許シェアをもっています。しかし特許出願推移を加味するとこれから勢力図が変わっていきそうな雰囲気です。
ファンダメンタル分析
ファンダメンタルの分析をします。今回はおおざっぱに選別するだけなので詳しい分析行わず、「バリュー投資の教科書」にある決算書分析の項目を用いて機械的に決算書の数字から選別しました。
下表が決算書分析結果になります。各社5年分の決算書を確認してまとめたものです(結構骨が折れました)。各項目の意味するところはググっていただくか、「バリュー投資の教科書」を読んでください笑。簡単に要点だけ説明すると、「利益を現金として獲得しながら将来のための投資ができているか?」をみている感じです。詳細に調査する銘柄の優先順位を決めるためのおおざっぱな分析ですのであしからず。トピックとしては、
- 5年間というスパンで見たときに、純利益、総資産、営業CFともに成長傾向にある企業がない、キャッシュが増加傾向にある企業がない。これは製造業の設備投資に業績が左右される業界の特有の事情?
- キャッシュ獲得能力がある企業が多い
- 投資がしっかりと利益に結びついていてる(ROIC10%以上)企業はわずか3社。資本効率の悪い業界?
技術×ファンダメンタル分析
それではいままで分析したマクロな情報をまとめていき、各銘柄の総評をしてみましょう。まとめ方としては下図のように横軸に技術開発成果や方向性、縦軸にファンダメンタルの点数をとって3段階で評価し、マトリクスにしました。横軸については、特許情報を基に将来に向けた技術開発の継続性と成果(特許出願)につながっているかどうか、将来性のある業界やロボット産業課題に対応した技術開発の方向性、現在の影響力などを評価。また、ロボット事業の売り上げ割合(業績への影響度)を色分けで表しています。
有望銘柄
技術面、ファンダ面ともに優秀で最優先で分析したい銘柄。すでに個別記事で分析済み。
【6954】ファナック
- 自己資本比率85%超、営業利益率15%超、営業CFもガッシリ稼ぐ
- 産業ロボットの特許権利数No1、近年の出願件数も右肩上がりで技術開発成果が出続けていることがわかる
- 溶接ロボットや工作機械への移送技術に強み
【6134】FUJI
- 自己資本比率80%超の実質無借金、営業利益率10%超
- 半導体製造装置企業を買収、事業領域拡大と技術シナジーに期待
- 電子部品組み立て技術に強み。特許権利数、出願件数TOP
- 技術開発成果として特許出願件数が右肩上がりに増加傾向
要検討銘柄
技術面、ファンダ面のどちらかに問題がある銘柄。安川電機を除いてロボット事業の売上割合も低い銘柄が多く、頭の片隅に置いておきたい。
【6506】安川電機
- ファナックと並ぶロボット世界4強の一角
- ファンダ面はファナックに大きく見劣りするが、特に悪いわけでもないコメントに困る感じ(;’∀’)
- 自動車や半導体関連ロボット技術に強みあり、特許権利数もTOP3で多い
- 直近の特許出願件数が大きく尻すぼみ、開発は大丈夫か?
【6645】オムロン
- 自己資本比率65%超ありながら、ROE・CFROAともに10%以上あり利益やCF効率高い
- 現時点でロボット事業の売上割合相対的に低く業績への影響小さい
- 特許権利数はまだ少ないが、出願件数は猛烈な勢いで増加中で注力度↑
- 自社のセンサ技術との組み合わせが強みと考えられる(要調査
【7012】川崎重工
- 技術動向としては、既存市場として大きい半導体ロボットに強みがあるだけでなく、ロボット業界の課題である三品産業に関する技術開発も行っている動きが見られ◎
- ファンダ面はあまり優秀ではなく、赤字事業の負担が大きいうえにロボット売上の割合が小さい
【6724】セイコーエプソン
- ファンダ面では資産増加傾向にあるものの、利益が増えず
- 借入金も増加傾向。キャッシュ獲得能力は高く営業CFは高水準
- 技術面では特許出願件数が激増しており、権利数もTOP3
- 特に組み立てロボット分野で今後の存在感が他社に比べ絶対的に大きくなると予想
【6752】パナソニック
- 営業利益率、ROIC低めで改善傾向みられず、投資があまり実を結んでない?
- 割合小さいながらも借入金増加傾向
- 技術面では電子部品組み立てで特許権利数が多く、出願も継続している
- しかし、ロボットの売上割合低く、業績へのインパクト薄い
【6594】日本電産
- CFROA高く、営業CFも安定。
- 資産増加傾向に対して営業利益が低下傾向→過剰投資気味か?
- 技術面では既存市場が大きい半導体分野で強み
- 権利数、出願件数ともに大幅増加傾向で、継続して技術開発成果がでている模様
【6622】ダイヘン
- 自己資本比率高めなのにROE高めだが、アクルーアルズがプラスの年が多く、キャッシュも増えていない。キャッシュ獲得に不安要素あり。
- 技術面では既存市場が大きい自動車や半導体に強みあり。SIer買収もおこなっており、ライン構築能力強化中
【6503】三菱電機
- ファンダ面はキャッシュ創出能力が高く、利益の積み上げや借入金返済〇
- ROICは低く改善傾向なし
- 技術面では、特許出願件数が増加傾向だが、出願数、権利数ともにはっきりとした優位性わからず
- ロボット事業の業績へのインパクト薄い
【7751】キヤノン
- ファンダ面は実質無借金で、キャッシュ創出能力高い
- しかし利益安定せず、ROICも低く改善傾向なし。
- 技術面では特許出願が増加傾向で規模も大きい。開発成果が順調に出ていると考えられる。
- 組立(特に嵌合)に強みあり
- ロボット事業の業績インパクト薄い
検討の必要なし銘柄
技術面、ファンダ面ともに強みが見られず投資を検討しない銘柄(あくまでロボット銘柄として)
【6474】不二越
- ファンダ面ではキャッシュ創出安定しているが、利益減少傾向、ROICも低く改善なし
- 借入金増加傾向にありつつ設備投資額が減っている
- 技術面では特許出願少なく、開発が成果に結びついているか疑問。
- 溶接用途で権利数がある程度あるが他社に対して優位なほどではない
【7272】ヤマハ発動機
- ファンダ面では資産増加に対して利益が反比例
- ROIC低く、キャッシュ創出も不安定
- 棚卸資産および借入金増加傾向
- 技術面では電気、電子部品組み立てに強み。
- しかし特許出願件数は減少傾向で規模も小さい。開発に不安あり
- ロボット事業の業績へのインパクト小さい
【6502】東芝
- ファンダ面は、なんか、こう、いろいろ、ダメダメ。
- 債務超過から改善傾向にあるのが唯一のプラス点か
- 技術面は搬送や荷下ろしロボットに注力の模様
- 特許出願増加傾向だが、出願数、権利数ともに規模がまだ小さい
【6104】芝浦機械
- ファンダ面では営業利益が停滞でROIC低く、キャッシュ創出も不安あり。
- 棚卸資産が若干増加傾向にあり、借入金は減っていない
- 技術面では特許出願件数が少なすぎて強みも弱みも見いだせず。開発に不安
- ロボット事業の割合は11%程度でそこそこあり
まとめ
以上になります。よく特許力をランキングしている記事やニュースはみかけるのですが、ファンダメンタルと組み合わせて格付けしたものを見たことがなかったのでやってみました。かなりの労力と時間がかかりましたが、すべての銘柄を一から分析していくよりは効率的に銘柄選定ができたと思います。各銘柄の分析記事も個別で作成していきますのでぜひご覧ください。
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